そして、ハートランドへ(ブッシュのアジア歴訪 Ⅲ)
前回見たように、ゼーリック国務省副長官は、中国が「responsible stakeholder」として国際秩序の維持のために積極的役割を担うことを期待しています。一方、鄭必堅・中国改革フォーラム理事は「中国は既存の国際秩序に挑戦することはない」と述べています。
中国の国際社会での責任ある役割といえば、まずは6カ国協議での議長国としての働きが思い浮かぶでしょう。今年9月には共同声明を採択し、平和的手段による朝鮮半島の非核化を実現と、停戦協定に替わる平和体制の構築が謳われました。文字通り、画期的と言ってもいいでしょう。
アメリカと北朝鮮の間には今でも埋めがたい意見の相違がありますが、アメリカの態度は以前に比べ、ずいぶん軟化したように思われます。今年6月に行われた米韓首脳会談ではブッシュ大統領が「ミスター金正日」と敬称をつけて呼びました。さらに北朝鮮がアメリカによる「圧制の拠点」呼称の撤回を求めて以降、ライス国務長官はインタビューに答えて「北朝鮮の体制は“見ればわかる”」というふうに、直言するのを控えるようになりました。こうして平和的手段による朝鮮半島の非核化を交渉するための素地が生まれたのですが、ここでは地域の安定に責任を持つ国家としての中国の仲介も大きな役割を果たしたと思われます。
一方、鄭必堅氏の言う「既存の国際秩序」とはどのようなものでしょうか。このヒントになるのが、今年7月初めにモスクワで発表された「21世紀国際秩序に関する中露共同声明」でしょう。ここでは「世界の多極化と経済のグローバル化は現在の人類発展段階の重要な趨勢となっている」と示されています。鄭氏は「多極化」という言葉を直接には使っていませんが、「既存の国際秩序」という言葉のなかに、それが多極化へと向かっているという認識が含まれているのかもしれません。だとすれば、当然のことながら、中国が多極のなかの一極となることを目指しているのでしょう。
さて、前述したように、朝鮮半島の非核化をめぐってはアメリカが態度をかなり軟化させました。しかし、最近、アメリカ政府から強硬な発言が相次いでいます。まずは11月6日、訪問先のブラジルでブッシュ大統領が“ミスター金正日”を再び「暴君」と呼びました。さらにAPEC期間中、6カ国協議主席代表のクリストファー・ヒル国務次官補が北朝鮮の存在目的に疑問を発したと伝えられています(ネット上で記事は見つかりませんでした。密かに撤回されたのかも知れません)。こうした発言は短期的には北朝鮮に譲歩しすぎだ、という議会からの批判をかわすためのものと見ることもできるかも知れません。しかし、長期的な原因も存在していると考えられます。民主主義という価値観を持ち合わせていない国家の体制を維持したまま、東北アジアの平和体制を構築することが果たしてできるのか、そして、可能だとしても、そのようにして形成された地域秩序がアメリカの国益に適うのか、そこでアメリカの影響力が維持できるのか、という疑問があるのではないでしょうか。
今回のブッシュ大統領のアジア歴訪の最終地はモンゴルとなりました。ここでもブッシュ大統領がイラク戦争への協力とともにモンゴルの民主主義の発展を大いに賞賛しました。モンゴルには先月、ラムズフェルド国防長官も訪問しています。人口300万の小国にアメリカ要人が相次いで訪問するというのも珍しいことではないでしょうか。
実は、ブッシュ大統領がウランバートルの地を踏んだ11月21日、ウズベキスタンでは駐留アメリカ軍の撤退が完了しています。これに先立つ今年7月、中露両国と中央アジア諸国からなる上海協力機構(SCO)が中央アジアにおける米軍駐留に期限を求める声明を発表しています。先月訪中したラムズフェルド氏もSCOの意図について質問したと外電は報じていますが、これは中国や日本のメディアではまったく報じられていない点です(もっとも中国では海外要人との会談では常にポジティブな面しか報じられないのですが)。
こうした事実を踏まえると、アメリカのモンゴル重視の意味がよく見えてきます。『新京報』や『環球時報』、シンガポール『聯合早報』などがアメリカにとってモンゴルの地政学的重要性が上昇しつつあることを論じています。しかし、これは裏を返せば内陸アジア全体におけるアメリカのプレゼンスが減退しつつあることを示しているのかもしれません。
さらに、モンゴルも中露両国との経済の結びつきや安全保障上の理由から、アメリカ一辺倒政策を採ることはできません。現在、モンゴルのエンフバヤル大統領が27日から来月3日という長期にわたって中国を訪問しています。29日に「中蒙共同声明」が発表されました。ここでは、中蒙二カ国および中露蒙三カ国の協力の深化と、東アジア地域の一体化への参与が謳われています。
ゼーリック氏はARF(ASEAN地域フォーラム)やAPECなどアメリカが参加する枠組において中国との協力関係を訴えたのに対し、鄭氏は『フォーリン・アフェアーズ』で発表した論文で東アジア共同体形成プロセスからアメリカを排除するものではない、と述べています。いずれにしろ、この地域で中国と米国が上手く協調できるか否かが地域の安定と民主化の鍵となりそうです。
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