温家宝演説を読む
今月中旬、ASEAN+3首脳会議、そして、史上初めての東アジア首脳会議がマレーシアの首都クアラルンプールで開催されました。中国からは温家宝国務院総理が出席しました。
彼がそれぞれの首脳会議で発表した演説の全文が外交部ホームページで公開されています。12日のASEAN+3首脳会議で発表された「協力を強固にし深化させ、共に美しい未来を創ろう」(以下、10+3演説と呼ぶ)、14日の東アジア首脳会議で発表された「開放と寛容を堅持し、Win-Winを実現しよう」(以下、EAS演説と呼ぶ)という二つの演説では、ともに東アジア協力におけるASEANの主導権を認めています。
10+3演説では次のように述べられています。
中国は東アジア地域の一員であり、中国の発展は東アジア各国の支持と幇助とは切っても切れない。東アジアの繁栄と振興も中国の発展からは離れることができない。堅忍不抜に地域協力を進めていくことは中国の外交政策の重要な構成部分となっている。中国は地域協力の主導権を求めるつもりは全く無い。中国は各国の共同利益に符合し、東アジア協力の発展に有利となるイニシアティブの一切を支持する。ASEANは10+3協力の組織者であり、主要な推進力である。これは各国の現実的かつ賢明な選択である。中国はASEANが主導的役割を担うことを引き続き支持し、また、日中韓が協調を強化し、十分にそれぞれの優勢と作用を発揮するように主張する。中国は本地域を閉鎖的、あるいは排他的集団にすることに反対し、10+3とアメリカ、EUおよびその他域外国家と組織とのコミュニケーションを強化し、不断に共同利益を拡大し、共同発展を図ることを支持する。
EAS演説では次のように述べます。
事実はすでに中国が責任感ある国家であることを証明している。中国は世界平和の擁護と共同発展を促進する堅実なパワーである。国際情勢がいかに変幻しても中国は本地域の人民にとって信頼のおける、頼れるパートナーである。中国は絶対に本地域で支配的な地位を求めることはない。中国の発展はいかなる人にとっても障害ではなく、いかなる国にとっても脅威を構成しない。安定し、開放的で、繁栄した中国はきっと地域と世界の平和の擁護、人類の共同発展のためにさらに大きな貢献をするだろう。
こうした発言は参加各国の間にも存在する中国脅威論を払拭する意味があるでしょう。同時に、首脳会議には参加していないものの、中国が東アジア秩序の形成でリーダーシップを握ることを警戒している米国の疑念を和らげる意図があるものと思われます。10+3演説には引用したように、これを閉鎖的、排他的組織にすることに反対し、「アメリカ、EUおよびその他域外国家と組織とのコミュニケーションを強化」を打ち出しており、EAS演説にも「中国は閉鎖的、排他的あるいは、特定国を目標とした東アジア協力には反対する」と述べる箇所が出てきます。
他方、二つの演説で差が出た部分があります。EAS演説では、(1)発展を中心として、共同繁栄を促進、(2)和睦関係をつくり、平和的安定を擁護、(3)協力を道筋として、Win-Winを実現する…と、大まかに議題を提起しただけなのに対し、10+3演説では、(1)長期的な発展に着目し、協力の推進を着実にする、(2)柔軟な方式を採用し、開放的プロセスを保持する、(3)相互の信任を強め、大同を求め小異を残す、(4)各国に配慮し、Win-Winの成果を求める…という、課題が提出された後、(1)ASEAN+3の10周年に合わせ、2007年に共同宣言を発表する、(2)FTAの研究、チェンマイ・イニシアティブの加速化など経済貿易方面の協力を進める、(3)鳥インフルエンザなど疫病や自然災害対策などの情報交換と技術協力を進める(中国はアジア地域災害研究センターを建設する)、(4)発展の差を縮小。国連開発計画が中国に設置した貧困扶助センターにて、来年、第二回貧困扶助ハイレベル検討会を開催する。農業技術協力も行う、(5)テロ、腐敗、麻薬販売、海上防衛など非伝統的安全領域での協力。また中国は10+3の軍事体育交流を発案する、(6)文化、教育、青年の交流を進める。中国は来年、アジア芸術祭を開催するがそのなかでASEAN文化週も開催する。また、学歴・学位の相互認定を進める…などという具体的な発案をしています。
ここには東アジア首脳会議が初開催のため、その具体的な方向性がいまだ固まっていないこと、中国自身がASEAN+3を東アジア共同体の母体と位置づけようとしていること(ちなみにEAS演説には「共同体」の文字がありません)などが影響していると考えられます。
他方、EAS演説には「科学的発展観」、「和諧社会」、「睦隣、安隣、富隣」、「平和五原則」、「新安全観」など中国の内政・外交・安保政策を表すキーワードが一挙に登場しており、より中国脅威論の払拭に努めた感があります。インドやオーストラリアが参加したこともその原因かもしれません。また東アジア首脳会議の方が国際的な注目度が高かったこともあるでしょう。
さて、温家宝総理は中国は支配的地位を求めないと言いましたが、中国の隣国・日本のメディアでは今次の東アジア首脳会議は日中両国の主導権争いとイメージされてきました。これは中国と日本、どちらが優勢と見るかという立場を問わず、です。一方、中国メディアの一部は「主導権争い」というイメージが東アジア協力を阻害する要因となることに懸念を持っているように思われます(例えば『環球時報』に掲載された鼎談)。
とはいえ、中国メディアにも中国の影響力増大と日本の相対的な地位低下を並べて論じているものも沢山あります。どうも、東アジア一体化を阻害するような日中関係の悪循環が続きそうな気がします。
| 固定リンク | コメント (4) | トラックバック (0)


最近のコメント